母乳とミルクと私

シンガポール子育て

日本では母乳かミルクか論争がすごい。

子供ができる前は、「母乳で育ててるかミルクで育ててるか」なんて聞いてくる他人が本当にいるんだろうか、と半信半疑だったけど、母になって3か月の間で、すでに10回以上は聞かれた。しかも大半が、見知らぬ通りすがりのおばさん。「赤ちゃんかわいいねー。で、母乳で育ててるの、ミルクで育ててるの。」と本当に聞いてくるのだ。

私は、娘が生後2週間から完全ミルクで育てはじめた。母乳が出始める何日間の間に、娘はミルクの味に慣れてしまっていた。搾乳して母乳を与えても嫌がり、おっぱいをあげようとしても顔を背けて嫌がり拒否されること2週間、たった2週間で私は挫折し、あきらめたのだ。

母乳が出始めのころのおっぱいの痛みもものすごくつらかった。熱をもって、岩のように固くなるおっぱいが、帝王切開の傷よりも痛む。

「母乳で育ててるかミルクで育ててるか」という質問を受けるたびに、私は律儀に答えていた。「はじめは母乳で育てようと思ったんですけど、娘が全然飲んでくれなくて。。」と娘のせいにした「完全ミルク」の美談を。

ある日昔から知り合いの、2人の子持ちママ友に「母乳かミルクか」を聞かれたときも、私は律儀に完全ミルクにした美談を話した。そうすると、「別に理由はいいし。」と返されたあと、「あんたまさか母乳かミルクか聞かれるたびに、律儀になんでミルクにしたか答えてるわけじゃないよね?」とぎくっとするようなことを聞いてきた。

まさにその通り。私、毎回ミルクにした理由答えてる。

「あんまり知らない人に母乳で育ててるかミルクで育ててるかって聞かれたら、適当に母乳です、って答えときゃいいんだよ。そしたらむこうも満足するからさ。」だって。

「あんた、ふだん適当なのに、そんなときだけ何まじめになってるの。」だってさ。

昔からまじめで、小さいことでよく悩んでいた友人が、今では強く図太い母親になっている。

母乳で育ててないことをひけめに感じてたのは、他でもない私だ。だから私は知らない人にでも、必死に理由を説明していたのだ。どこかで、あの時もっと嫌がる娘と、痛むおっぱいと向き合っていればよかった、という負い目があるのだろう。律儀に理由を説明してしまうのは、そんな理由ならミルクにしたって仕方ないわね、と知らないおばさんからでも認めてもらって、慰めてもらいたかっただけなのだ。

母乳神話をとなえるおばさんたちは、もしかするとかわいい赤ちゃんを前に会話のはけ口を探しているだけなのかもしれない。私の「完全ミルクに対する詳細な理由」なんてどうだっていいのかもしれない。

今まで自分で追い詰めていた「完全ミルクに対する母としての負い目」以外は、ミルク育児は私にとてもあっている。他人に預けられるし、おっぱいは張らないし、好きなものを食べれて、ちょっとだけお酒だって飲めちゃうんだ。そして何よりも、娘は健康で、すくすくと成長している。

私がそれでいいなら、それでいいじゃないか。

「これからは母乳神話を唱えてくるおばさんは適当にあしらうわ。ありがとう、先輩ママ!」と誠意を込めて礼を言ったところ、「やめて。先輩ママとか言ったり言われたりすんの大嫌い。」だってさ。

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Cocoaプロフィール
cocoasan

2014年、旅行でたまたま訪れたシンガポールに魅了され、32歳で現地採用の銀行員としてシンガポールに移住しました。現在は、フィットネスジムを経営する夫を手伝いながら、シンガポールで子育てをしています。

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