いつも学校帰りのバスで、娘と一緒になる日本人の子がいる。
話したことはもちろんないんだけど、お互いの存在を認識している、そんな間柄。
大人でもよくある。
日本語が聞こえてきて、同胞だとわかる。だからといって気軽に話しかけていいのか迷う。
でも、常に気になる存在。
娘は、何度かその子のお話はしてくれていた。「お話してみようかな。」「恥ずかしいな。」なんて言ってて、私はそれを、ほほえましく聞いていた。
そんなある日、娘が泣きながら帰ってきた。
バスを待っている時に、日本人の子に「おともだちになってもいい?」と聞いたそう。そしたらその子は、娘の顔を見ずに、まっすぐ前を向いたまま何も言わなかった。
返事をもらえないまま、気まずい気持ちだけが宙ぶらりんとなり、バスに乗って帰ってきた娘。
私は「このガキが」と思っていた。
娘の勇気がへし折られたこと。
傷ついて、泣きながら帰ってきたこと。
「こっちも無視しちゃえよ。」とか、「そんな子とお友達になんなくたっていいよ。」と、邪悪な心が私を支配する。
この話をXに書いたら、
子供が無視しただけで親が腹立たしいまで行くの結構恐怖感じた
とか
なんでこの手の話っていつも「腹立たしい」ってフレーズが出てくんの
と、コメントをもらったけど。
バスが同じ日本人の子に、勇気を出してお友達になろうと言ったら無視されて泣いていた娘。話を聞いて腹立たしかったけど、数日後にその子の母親かた連絡がきて、その子は恥ずかしくて何も言えなかったと、お家帰ってずっと泣いてたんだって。せっかく話しかけてくれたのに
— Cocoa@シンガポール🇸🇬 (@CocoaSingapore) June 5, 2026
そんなことがあった、数日後。
知らない番号からWhatsappへ長文メッセージが届いた。
送り主は、その子のお母さん。
娘が無視されたと思っていたあの日、その子は恥ずかしくて何も言えなかったらしい。
せっかく娘が話しかけてくれたのに返事ができなかったことを後悔し、家に帰って泣いていたそう。
そして、「娘ちゃんのお母さんに連絡して、ごめんねって伝えて。」と、その子がお母さんにお願いしたらしい。
でもさ、学校には日本人の子が何十人もいる。
学年も知らない。
親同士も面識がない。
どうやって私を見つけたんだろう。
聞いてみると、娘がハーフの子であるらしいことから国際結婚している日本人を絞り込み、共通の知人やコミュニティをたどりながら探してくれたらしい。
お母さん、FBI捜査官になれると思う。
お母さんも、恥ずかしくて話せなかったと泣く子供のために、FBI捜査官となり、私を探し当てた。送る文章も何度も考えたはずだ。
私は大人げない大人なので、自分の子供が傷つくと、傷つけた相手の事情を考えずに、ただ責めたくなる。
でも、少しばかりの理性は持った大人なので、娘の前でその子を悪く言わなくてよかった。
娘が傷ついたと思っていたあの日。
見えないところでは、返事ができなかったことを悔やんで泣いていた子供もいた。
私はそのことを、娘と一緒に知ることができてよかった。
娘とその子は、無事に友達になった。
最近はバスの中で話したことを、娘が楽しそうに教えてくれる。
私とその子のお母さんは、よくメッセージのやり取りをするようになった。
今度お茶にでも誘ってみようか。
面倒くさいと思われるだろうか、なんてことを考えながら。
大人だって、最初の一歩を踏み出すのはとても勇気がいる。
あの日、傷ついたと思っていた子供がいて。
あの日、傷つけてしまったと思って泣いていた子供がいて。
子供の勇気も、恥じらいも、後悔も、悔しさも。
全部がまぶしくて、愛おしい。
