ヘルパーを雇って、二年半。
フィリピンの田舎から、初めてシンガポールに来た、若くてまじめな彼女を、私は妹のように接してきた。
家族というより、「子どもを育てるためのチームの一員」という感覚で、信頼して頼ってきた。
二年目の契約更新のときには、給料も大幅に上げた。
フィリピンに小さな子どもが二人いるからと、荷物を送りたいと言えば餞別を渡したり、できる限り柔軟に対応してきたつもりだった。
娘がインター校に通い始め、送迎を彼女が担当するようになってから、少しずつ変化が。
周りの、いわゆる“華やかな家庭”のヘルパーたちと交流を持つようになり、彼女は明らかに変わっていった。
あいさつをしなくなり、さらなる給料交渉をしてくる。
娘のランチボックスも雑になり、何かを頼めば露骨に嫌そうな顔をするようになった。
日曜日に楽しみにしていた教会にも行かなくなり、休みの前日は泊まりで出かけ、日曜は遅くに帰ってくることが増えた。
小さな「ん?」が積み重なっていく。
気づけば、彼女が家にいること自体がストレスになっていた。
そんな中で言われたのが、「祝日は完全に休みにしてほしい。」だった。
その瞬間、ぷつんと何かが切れた。
これまで祝日は出勤日扱いだったけれど、実際にはほとんど休ませていたし、予定があるときは午前だけ働いてもらうなど、かなり融通をきかせてきたつもりだった。
それなのに彼女は言った。
「今までほとんど祝日は休みだったので、休みだと思っています。少しの仕事もしたくないです。」
さらに、「契約書に祝日が出勤日と書いていないなら、祝日は休みのはずです。」と。
いや、契約書に「週に一日の休み」書いてある時点で、日曜休んでるなら祝日まで休みじゃないだろ、って話。
これまでのこちらの気遣いや柔軟さを、完全に逆手に取られ、なめられている。
まあ、それでもよく聞くヘルパートラブルの中では、正直まだ軽いんだろうけどね。
お金を盗られたわけでもないし、子どもに何かあったわけでもない。ただ、二十代の田舎女子が、シンガポールに来て調子に乗り始めただけ。
わかる。わかるのよ、でもな。調子に乗るな。
旦那に相談して三人で話すと、彼女は途端に泣き出して、「マム(私)は優しくない」と旦那に訴え始めた。
フィリピンで会社を経営し、何人ものフィリピン人スタッフを雇ってる旦那は、ヘルパーの涙にもまったく動じなかった。
何度も裏切りを経験してきたであろう経営者の、静かな強さと冷たさで、淡々と、事実だけを積み上げて話し続けていた。
私は正直、怒りを抑えきれず、かなり感情的になってしまったけど、こういう場数が少ないんだから、仕方ないとも思っている。
その後、さすがにまずいと思ったのか、ヘルパーは急に優しさ百倍になったけど。
友達に言わせると、「二年半も何もトラブルがなかったのが奇跡」らしいけど。
他人を家に住み込ませて、ヘルパーとして雇うということの難しさを、やっと実感した。
