去年のロックダウン以降、シンガポールだけは政府の迅速すぎる取り締まりにより、まるで世界で起こっていることが嘘かのように、平和な日々を過ごしていた。
シンガポールでフィットネスクラブを経営する私たち夫婦も、やっと利益をとりもどし、それどころかここ数ヶ月は、コロナ前よりもジムが繁盛し、私と旦那は軽く調子にのっていた。
シンガポールに入国するまでは、世界のコロナ情報を日々確認していた私も、シンガポールに入国してからは、世界のコロナ事情を全く追わなくなった。
日本のコロナ対策のお粗末さ加減を、面白半分に聞き、何度もロックダウンを繰り返すタイやフィリピンでフィットネスクラブを営む同業者の嘆きを、他人事のように聞いた。
ウィルスは常に変異しながら脅威を増しているのに、この国に身を任せさえすれば安全で安心、守られていると思いこんでしまっていたんだ。
5月8日から5月30日まで、政府が発表したいくつかの規制強化に「フィットネスクラブの閉鎖」が含まれるとは夢にも思わずに。
やっと経営が上向きになってきたのに。人を雇ったばかりなのに。ジムの改装をしたばかりなのに。マーケティングに力を入れようとプロジェクトを立ち上げ、チームみんながまとまりかけた矢先。
これもウィルスをこれ以上増やさないための政府の政策の一部。
メディアにも、冷静に分析した理論を伝えるシンガポール政府の政策に、不満はない。
あるのは、よみがえるとてつもない先行きの見えない不安。
私たちを励まそうとしてか、たったの3週間でしょ、とか、助成金もらえるんでしょ。なんてまわりに言われたりするのだけど、零細企業にとって、1か月の収入が0になる、ということはとてつもなく大きい。
ジム閉鎖中の3週間は生き延びれたとしても、簡単にその後の支出に影響が出る。キャッシュフローが回らなくなる。
雇用は守りたいなんてかっこつけながら、社員の給料や、家賃や、光熱費やトレーニング費用や、ジム器具のレンタル費用とか、今後の利益につながると信じて投資した全ての支出の穴埋めを、さあどうしましょう。
本当に、コロナのせいで何度も何度も予定が狂う。妊娠中や産後、ビジネスや生活が。
ただ、コロナのおかげで何度も訪れる危機の中でも「家族みんな健康でありがたい。」という究極の結論にたどりつけるのもまた確かだから。
旦那は昨日、ジム閉鎖の準備で疲れ切った顔で、それでも「どんなに大変で辛い時も、娘を想うだけで立ち上がれる。」と言った。
同感。
だからまた乗り越えよう。
これからも、何度となく訪れるであろう数々の試練を。