旦那は遠い海の向こう。38歳でさえ、「若いっていいわね」と言われてしまう、過疎化のすすんだ北海道の田舎街に、妊婦のときから数えて8か月間住んで、私は女ではなくなっていた。
じいさんとばあさんが街を占領し、素敵な男の人をこの8か月間、ただの1度も見かけることはなく、それどころか若い男の人さえあまり見かけることもなかった。
外に出るときは、夏は毎日同じワンピを着て、冬になると部屋着にダウンをはおる。下着は妊婦のときに購入したマタニティ用のパンツ、ダウンを着るからブラジャーさえもつけない。
髪はつねにひとつに結び、化粧をする、ということを朝のルーティンから外してどれくらいたつだろう。
娘の4か月検診で、名前をよばれ、診察室にはいったとき、小児科の先生に心を奪われてしまった。かっこいい。。。学生のときはラグビーをやっていたのではないだろうか、と思わせるからだに、浅黒い肌。背は180センチはゆうにこえているだろう。
すぐさま心のなかで自分の服装をチェック。毛玉がついた分厚いタイツに、よれよれのワンピース。もちろんすっぴんで、髪は1つに束ねている。かろうじてブラジャーはつけてきました、というレベル。総合評価、ゼロ。
事務的な問診のあと、私は特に聞かれもしないのに、「数日後にシンガポールに戻るんですよ。」と国際的アピールをはじめた。そうすると、「シンガポールで開業したいよ。」とか、「シンガポールは何度か行ったけど、いいところですよね。」と結構な食いつきを見せてくれたので嬉しかった。
私は、見かけでは勝負できない分、シンガポールでのコロナ事情などを説明したりし、「知的な国際派な女性」で勝負にでる。
最後に「ほかに質問はありますか?」という事務的な先生の質問に対し、この先生は私に興味があるのではないか、と勘違いしてしまうほどに、私はときめきから遠ざかっていたようだ。
「私からの質問はないですが、娘が、先生、シンガポールに遊びにきてね。と言ってますよー」と娘を使い、手を振らせたとき、先生は素敵な笑顔で娘に微笑み、「コロナが収束したら本当に行きたいですよ。嫁もシンガポール好きなんで。」だってさ。
私の淡いときめきは一瞬で終わったけど。
先生が結婚していてがっかりしている場合ではない。
シンガポール入国まであと3日。やらなきゃいけないことは山積みだ。
ときめいたとか、ましてやそれをブログに書いて喜んでいる場合では、とてもない。